汗ばむ陽気に、夏休み前の教室は少し浮かれていた。


高校生になって初めての夏休み。


目をつむりたくなる量の宿題をよそに、心は青い空に向けられていた。


(いい天気……)


夏休みの注意事項を語る先生の声が遠くなる。


「じゃあ、解散。」


先生の声を合図で散り散りになるクラスメイトを横目に塁(るい)は空を眺めていた。


その時、教室がざわついた。


「河彩塁(かさいるい)、居る?」


低めの良く通る声が、1年F組の教室に響いた。


180cmを超える長身、少し伸ばした前髪、ネクタイの色を見ると3年生であることがわかる。


「え?何?」


塁は周りの変化にまごついた。