改札を出て亮ちゃんに肩を抱かれたまま、ロータリーの方へと向かう。
 すっかり陽が落ち、冷え込んだ夜風が首元をすり抜けてくのを僅かに身を竦めて。コートはダウンにしておいて正解だった。

 タクシー乗り場を過ぎ、送迎の車がハザードを点滅させて連なっている辺りで亮ちゃんが足を止めた。倣ってわたしも。すると間もなく黒のスポーツタイプのセダンがすっと横付けされ。エンブレムでこれも外車だっていうのが分かった。

 後部ドアを開いてくれた亮ちゃんに目線で促され、奥に乗り込む。チラッと見えた運転席の男性はサングラスをかけていて、誰なのかなって思った。
 亮ちゃんが隣りに座りドアを閉めると、運転手さんは「お疲れ様です」とすかさず声をかけた。

「・・・出してくれ」

「はい」

 亮ちゃんに対して敬語を使っていたから、彼が主従の『従』者だってことだけ。

 車内はエアコンが効いて暖かかった。コートを脱ごうか考えて、でもすぐ降りるなら構わないし。・・・そんなことを悩んで迷っていたら横から亮ちゃんが。

「明里、すぐには着かないからコートは脱いでおけ」

 見透かしたみたいに。

「あ、うん」

 もぞもぞと限られた空間の中で不自由そうに袖を抜いていたら、腕が伸びてきて黙って手伝ってくれる。

「・・・ほら」

「ありがと亮ちゃん」

 引っ張ってお尻の下から抜いてくれたコートが手渡された。それから自分も器用に上着を取る。
 裾を出した黒いシャツ、グレーの細身のジーンズ、ワークブーツ。そう言えば髪型もいつもより自然に遊ばせてる感じで。スーツじゃないと普段より若く見える・・・なんて言ったら悪いかなぁ。
 思い切りじっと見つめてたら、深めの溜め息を吐かれた。

「・・・・・・明里。俺以外の他所(よそ)の男をそんな風に見るな。・・・特に社長は間違っても止めておけよ」

「え? あ、うん」

 ごめんなさい、とあたふた謝る。

「・・・怒ってるわけじゃない。勘違いする男が多いから、気を付けろと言ってるんだ」

 言われてちょっと考えてから。素直に。

「亮ちゃんしか見たくないから多分平気だと思うけど。気を付けるね」

 途端に前からむせる声が聴こえ、隣りからも咳払いがした。
 眉間にしわを寄せ、片手で口許を覆った亮ちゃんは。視線を逸らすと、疲れたような顔で嘆息する。 

「・・・いや。それならいい・・・」

 ・・・・・・なんか変なこと言ったのかなぁ、わたし?