「先週、事業部の忘年会があったろう。明里のことだ、誰かに口説かれたりしたか?」

 同じ外車の後部シートにまたも社長と隣り合わせで。
 口角を上げ、面白そうな表情を傾けられる。

「酔ってからかわれたぐらいで、そんなことは・・・」

 嶋野さんにしたって宴会のノリみたいなものだし。

「しつこい奴がいたら俺に言え。明里は大事な気に入りの女だからな」

「いえあの、そんなに変なヒトはいないって思いますし」

 下手に口を滑らせてリストラでもされたら困りますし。笑顔が若干、引き攣った。

「亮も気掛かりだったみたいだぞ」

「えっ・・・?」

 運転席を思わず振り返る。
 亮ちゃんは前を向いて、黙ってハンドルを握ったままだったけど。
 
「明里を無防備な女に育てた男が悪い。因果応報って奴か」

 ククッと笑いをくぐもらせて真下社長がそんな風に言った。
 無防備って。眉根を寄せる。ナオにも似たようなこと言われるけど、そんなに軽率じゃないもん、わたしだって。

 不本意そうだったのが表れていたらしく、今度は意地悪げな笑みを口の端に乗せ、躊躇もなくまたわたしの頭を撫でる。
 
「いくら俺が社長でも、よく知りもしない男に付いてくるのを無防備とは言わないのか?」

 思わず瞬き。えぇとでも、普通どう考えても社長に言われたら断れないんじゃ?? 第一。

「・・・亮ちゃんもいますし、特に心配するようなことは・・・」

「亮がいるから・・・ねぇ」

 自分が何かおかしなことを言ったのかと、視線を傾げると。真下社長は目を細めて薄く笑った。

「もう何年も会ってなかった男だろう? どうしてそんなに信用できる?」

 どうしてって。
 そんなの考えなくたって。

「亮ちゃんですから」

 すぐ答えなんて出るのに。変なこと訊くなぁって、わたしは不思議なだけだった。