*★*―――――*★*

小学3年生の夏に発症した梨佳が、入退院を繰り返していたのは2年足らずのことで、

6年生になると、ほとんど自宅には戻れなくなるほど、病状は悪化していた。

卒業式には出られなかったので、同級生数人と教師が卒業証書をもってきた。

中学は病院の院内学級に通うことになった。

そうなると、新しい生活に慣れ始めた同級生たちは、パタリと会いに来なくなる。

そもそも、友達だったかすら怪しい。

おそらく、クラス委員か何かだったのだろう。

でも、たった一人、週に1~2度、必ず会いに来る男の子がいた。

大河だった。


加奈子が梨佳に初めて会ったのは、ちょうどその頃だ。

今から4年前、看護師になって1年目の春。

梨佳がまだ14歳の時だ。


――人形みたいな子……


そう思ったことを、加奈子はよく覚えている。

日に当たった事のない白い肌、華奢な体、大きな目を縁取る長いまつ毛。

見た目だけではない。

梨佳は人形のように従順な、いわゆる“優秀な患者”だった。

多少頑固な一面があるものの、そんなものは誰にでもある程度のもので、

梨佳が自分勝手なわがままで、誰かを困らせたりしたところを、加奈子は見たことも聞いたこともなかった。

入院している小学生達に勉強を教えたりと面倒見もいい。

自分の病気にも負けず、いつも笑顔を絶やさずにいた梨佳の事を、とかく周囲は評価したけれど、

加奈子はあまりにも出来すぎた子供として、正直なところ苦手と感じていた。

特に、何があっても同じように見える梨佳の笑顔は、あまり好きではなかった。

そんなある日、デイルームから聞こえる大声に、加奈子は耳を疑った。