神様、どれほど償えば この恋は許されるのでしょうか?


*★*―――――*★*

いきなり降り出した雨は、まったく止む気配がない。


「明日は梨佳ちゃん定期受診の日だし、傘は彼女に預けておいてもらえればいいよ」

「ありがとうございます」


高橋から傘を受け取ると、由紀は頭を下げ、駅に向かう。

いい子なんだろうと、加奈子は思う。

以前、梨佳が話してくれた、高校に入ってできた友達というのは、この子なのだろう。


「泉美ちゃんのお母さんと鉢合わせちゃってね。梨佳ちゃん」


病院内のカフェテリアに場所を移したところで、聞いた高橋の呟きに、加奈子は眩暈した。

件の彼女は、過去に梨佳に対して、ちょっとしたトラブルを起こしたことがある。


「……梨佳ちゃんって、気づかなかったんですよ…」


そう嘆くと、加奈子は勢いよくテーブルに顔を突っ伏した。

あの時、声をかけていればこんなことにはならなかったのにと、悔やむ。

そして、確認するように思い出す。

一瞬、似ているとは思った。

でも、全体の雰囲気が梨佳とは全く違った。

本当に梨佳だったのだろうか、見間違う事なんてあるのだろうか。

いまでも、そう思う。


「加奈子さんのせいじゃないよ。大河が梨佳ちゃんのそばにいなかったのが、一番悪い」

「…そんな無茶な、大河だって朝から晩まで梨佳ちゃんと一緒ってわけじゃないし…」

「物理的な意味だけじゃなくてさ…」

「……?」

「手を放しちゃいけないのは、梨佳ちゃんだけじゃない」


意味ありげな発言に、加奈子は顔を上げ、不思議そうに高橋をじっと見る。

高橋は重い空気を和ませようとでもしたのか、

うーん…と、わざとらしく考えるふりをし、ポンと手を打って閃いてみせる。


「そう。梨佳ちゃんはね、大河の“良心”なんだよ」

「…はぁ…?」


いきなり何を言い出すのか。

加奈子は高橋を睥睨しつつ次の言葉を待ったが、続きはなかった。


「もういいです。帰ります」

「え?帰っちゃうの?…その…食事でも…」

「お疲れ様でした」

「…お、お疲れ…様。雨降ってるし…気をつけて…」


加奈子の姿が見えなくなると、しばらくして雨音が激しくなった。

コーヒーは忘れられたまま、すっかり冷めてしまっている。

高橋はガラス越しに滲んだ景色の先を見つめながら、大河が入院してきた日の事を思い出していた。

8年前の、深夜2時。

当直医だった高橋の前に、警察官が連れてきた、ずぶ濡れの男の子。

梨佳が初めての発作を起こして、入院してくる2か月前のことだ。


――荒れそうだなぁ……


この程度の雨ぐらいで、見慣れた日常は一変する。

嵐が訪れたら、世界はもしかしたら、あっという間に壊れてしまうかもしれない。

そう、危惧した。