見舞いに行くと、梨佳がぼんやりと窓の外を見ていることがある。
いつもは、大河が声をかけなくても、こちらを見て微笑むのに、まったく気配に気づかない。
そんなときは大概、誰かがいたはずのベッドが空になり、真新しいシーツに張り替えられているのだ。
“次は梨佳かも知れない”
大河ですら思う。
でも、梨佳にとって人の死は、おそらくもっと身近にある。
それは年の近い友達の死よりも、もっと寄り添うように張り付いた、自分自身の死の匂いだ。
“次は私…”
消えそうに囁く梨佳の覚悟は、子どもの頃から何度も繰り返され、
それは、いつか訪れる日の予言のようだと、大河は思った。
――…引きずられるなよ…、梨佳っ!
梨佳の手を取り、繋いできた。
この女の子が、この世界から消えていなくなってしまわないように。
それなのに。
梨佳はさっき、自分から大河の手を振りほどいたのだ。
「梨佳っ…!」
敷地内を駆け抜けて、病院の正門の前で辺りを見回す。
梨佳の姿はもう、どこにもない。
ポツッ…
雨粒が大河の髪先をかすめた。
足元の黒いアスファルトに、さらに黒い雨滲みができる。
ポツッ…、ポツ…と、
心にもシミが落ちる。
深く濃く、黒いしみがじわりと大河の心を塗り潰していく。


