「伊藤さん!」
明日の準備を終え、救急外来の横にある職員通路から帰ろうとしていたところだった。
大河が息を切らして、そのまま加奈子にぶつかる勢いで走ってくる。
「梨佳、来てない!?」
「梨佳ちゃん?今日は診察の日じゃないでしょ?…それより、あんた…」
そう言いかけて、加奈子は視線を大河の後隣に移す。
同じように息を切らしながら、ペコリと頭を下げたその少女は、梨佳のクラスメイトなのだと自己紹介した。
フレームに収まる二人の姿に、加奈子は首を傾げた。
何と言うか、つじつまが合わないのだ。
大河の隣に梨佳がいない。
そして、その違和感には覚えがあった。
ほんの、ついさっきのことだ。
「……見た…かもしれない。梨佳ちゃん…」
でも、あれが…?
本当に、さっきのあの子が梨佳なのだろうか?
「見たって、どこで?!」
「いや、でも…嘘でしょ?…ものすごく梨佳ちゃんに似てたけど、だって、あんたと一緒じゃないし、それに…全然、」
「大河っ!」
声のするほうを振り向いた。
と、同時に高橋が大河の肩をつかむ。
「今すぐ、梨佳ちゃん追いかけろ!まだ、遠くに行ってないと思うから」
「……?」
「何やってんだっ!絶対に手を離すなって言ったろ!」
迫力に弾かれるようにして走り出した。
その大河の後を追いかけるように、高橋の声が響く。
「大河!……ほんの1時間くらい前だ!…泉美(いずみ)ちゃんがっ…!」
続きは聞かなくてもわかる。
――死んだ。
大河の脳裏に、梨佳より3歳年下の、梨佳と同じ心臓病を患った女の子の姿が浮かぶ。
どういう経緯か、梨佳が泉美の死を知ったのだ。
「よりによって、何で梨佳が…」
――ひとりの時に……!
病院の敷地内を駆け抜けながら、大河は、何年も繰り返された光景を思い出す。


