“わたし”は夕やけに夜の藍色が混ざり始めた空を見上げていた。
「……ここ、どこ?」
先生に会いに行こうと思って、電車に飛び乗ったのはいいけれど、まったくもって見覚えがない街に来てしまった。
……かと、思えばそうでもない。
バス停には“藤沢医科大学付属病院前”と書いてある。
「ああ、なんだ病院の近くだ」
スマホで時刻を確認すると、16時すぎ。
「加奈子さん、まだ外来にいるかなぁ~」
急がないと帰っちゃうかもしれない。
“私”は、急ぎ足で病院まで向かった。
先生には、明日学校で会えばいいや。
こないだ生物室で勝手に朝ごはん食べていたのを見逃してくれたから、
明日は“わたし”が先生の分も作ってあげよう。
いつ洗濯したのかはわからないけれど、それなりに小奇麗な白衣を着て、ドアのそばに立つ先生が目に浮かぶ。
“ファーーン…!”
「きゃあっ!」
急に追いついてきたバスが、クラクションを鳴らしながら、ギリギリで“私”をかわす。
目の前で、バスのマフラーから墨色の排気ガスが巻き上がる。
咄嗟に目を閉じる。
ディーゼルの匂い。
「……え?」
目をあけると……
“梨佳”は駅前に立っていた。
でも、いつもの見慣れたバスロータリーがないのだ。
キョロキョロとあたりを見回すけれど、学校まで続いているはずの、まっすぐ伸びた緩やかな坂道もない。
かわりに、客待ちのタクシーが数台停まっている。
見たことのない、駅前の小さなパン屋さんから、パンの焼けるいい匂いがしてきた。
「先生、一人暮らしだし…、なんか買っていこうかな……」
いきなり押しかけたら、さすがに先生も怒るだろうか?
“梨佳”は、焼きたてのパンの入った袋を見つめた。
「……?」
“凪紗”は、焼きたてのパンの入った袋を見つめた。
「……?」
店の名前が印刷されている。
「…rêverie (レヴリ)?」
変な名前。
瞬きすると、また景色が変わった。
病室の窓から見える、貯水池。
私と同じ病気の女の子。
授業する先生の後姿。
大河と見た星座。
花火。
夏の終わりの花火……
瞬きをするたびに、様々な情景が浮かんでは消える。
突然、すべてが真っ白になって目がくらんだ。
徐々に慣れてきた目の前に広がったのは、雪だ。
今度は“梨佳”が病院にいる。
小さい”梨佳“と、同じように小さい、小学生の大河。
二人で病室を抜け出して、1階の中庭にできたクリスマスツリーを見に行った時だ。
「キレイ!ありがとう!大河くん」
――ずっと、夢を見てる。
“ピンポーン…”
チャイムの音が聞こえる。
ドアが開く。
――…今も、見てる……


