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――大河が笑ってる……
笑ってる。
大雨の中、ずぶ濡れで、道路の隅にひっくり返って笑ってる。
「あはは…は」
この男の人、誰?
――誰?…って、先生でしょ、忘れちゃったの?
わたしは、恐る恐る近づいて、その人の顔を覗き込む。
ボコボコに殴られて、腫れ上がってる……けど、
――ほら、やっぱり先生だ。
ほら、やっぱり知らないひとだ。
ケンカの相手はそれ以上にボコられて、負け惜しみを吐きながら逃げて行った。
「何見てんの…早く、どっか行けっ」
「あ…ありが…とぅ」
わたしは、持っていたハンカチで、その人の口元の血をぬぐう。
その自分の手を見て、震えていることに気付いた。
涙が…、零れる。
今まで、必死に我慢していた分だけタチが悪い。
後から後から、とめどなくあふれ出る。
「あ…あり、がと…」
助けてくれて、ありがとう……
――先生は…道路に横になったまま、そばで泣いてるわたしを見てる。
「……あんた、高校生だろ…子供は早く帰りな」
――ああ、これは先生と初めて会った時の記憶だ。
わたしは首を横に振る。
家なんかに帰ったら、さっきの男が待っている。
こんな、知らない人に言われて、ようやくわかった。
“全部、嘘だった”
“あの人達は、わたしを愛してなんかいない”
土砂降りの雨の音は、うるさく耳に響いているのに、わたしの心は、ようやく静けさを取り戻す。
――先生が、泣きじゃくるわたしの頭をなでながら……
「まいったなぁ…」
と、苦笑いした。
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