梨佳はベッドから、のそり…と、重い体を起こすと、部屋を見渡した。

今日は朝から雨だ。

夢の中の世界は、抜けるような青い空だった。

梨佳はそのギャップに、しばらく窓の外に視線を固定したまま動けない。

今朝は、先生の家に押しかけた日の夢をみた。


バス通りから外れた、駅から30分も歩かなくちゃいけない古いアパート。

キッチン、リビングと、もう一部屋。

寝室かと思って、凪紗が開けてみると、ものすごく涼しくて……

部屋には、知らない虫の標本がいっぱい積んであった。

先生の学生の頃からの研究テーマなのだそうだ。

標本が痛んでしまわないように、夏場はクーラーをつけっぱなしにして、温度と湿度の管理をしているらしい。

リビングでは、先生が扇風機の前を陣取っている。


“バカじゃないの?……”

“ほっとけ…!”


凪紗が笑う。


心臓の記憶は、何度も何度も、梨佳の夢を通して蘇る。

梨佳は両手で顔を覆い、うつむいた。

その、ひどい幸福感と罪悪感に、指の隙間から涙が零れる。

もうすぐ、大河が迎えにくる。

いつものように……