学校にも慣れてきたある日の朝。私はともだちの飯田菜月といっしょに教室に入ると、いつも以上に賑やかだった。
「ゆっちゃん、何かあったの?」
私はクラスメートの藤井ゆりかに聞いた。
ゆりかは可愛くてスタイルもいいせいで雑誌「GIRL」の読者モデルをしている。
「転校生が来るんだって!朝倉たちが言ってた!」
朝倉祐也は、学年の中でもイケメンな方でうちとクラスのムードメーカーであり、だいぶモテている。
「転校生?」
この時期に転校生ってめずらしいな。
男子かな?女子かな?
そんなことを考えてる間にHRが始まった。
「席つけぇー」
担任の寺西誠也先生は、若いしノリがいいので生徒達に「てらちゃん」と呼ばれ親しまれている。
「今日はみんな知ってる通り、転校生が来てる。入っていいぞ。」
私は唖然とした。
夢だとも思った。幻を見ているのだろうか。
黒板の前には、新しい制服に身を包み、ネームに「吉沢」と書いている。
私が卒業式に恋したあの人だ。
「吉沢遥輝です。宜しくお願いします。」
女子はみんな「イケメン」と口々に言っている。
男子も「イケメン」という程のイケメンだ。
私だけみんなと違う感情に浸っていた。
あの人だ。ようやく会えた。
彼は覚えているだろうか。
名前も知らなかった彼のことが気になり続けていた私からすればこれは運命だ。
と、1人で盛り上がっていると、横から誰かに声をかけられた。
「よろしくね。」
彼が私の横の席に来たんだ。
私はなんて言えばいいかわからず、
「よろしくね」
と、ぶっきらぼうに返すだけだった。
彼は私の昔の姿を知っている。
そんなのは関係ない、なんて口が裂けても言えない。あんな姿を記憶されては、
「あの時の第二ボタンの女の子です」
なんて言ったら、彼が周りにばらしてしまうかもしれない。
不安と高揚感でいっぱいだった。
しかし、そんな不安を裏切るような転機がおきた。