「大貴くんと菜々子ちゃんよ。」




お母さんが紅茶を入れながら言ったのは、二人の名前だった。





「あの二人が…何?」




「夏海が出掛けてる時に、二人が訪ねてきてね。『夏海がいつか大切な人を連れてくると思う。それはおばさんにとって驚くような人だと思う。それでも、今夏海が過去と向き合って前に進めてるのは、紛れもなくその人のおかげだから。ただ夏海を信じてやってくれ』って。…特に大貴くんが力説してくれたわ。」




「大貴が…?」




あんなに反対してた大貴が?




二人の気遣いに、思わず涙が溢れた。




「大貴くんが言った、私が驚くような相手…すぐに教師だってわかった。でもね、お母さんもわかってたのよ?夏海を変えてくれたのは、きっと夏海を大切に想ってくれている人のおかげだって。最近の夏海、見違えるほどいい表情してるもの。」




そう言って、お母さんは春馬くんに微笑みかけた。




春馬くんも少し緊張が溶けたようで、お母さんに向かって話し始めた。




「夏海さんと出会ったのは偶然でした。大人びた表情、だけどどこか寂しそうな顔。大学生くらいの子だと思って接していくうちに、だんだんと惹かれていく自分がいました。付き合い始めた頃、学校で夏海さんを見かけた時は本当に驚いた。それに、夏海さんから聞いていた以前の先生との一件もあったので、教師としては別れなければならない。…そう思ったのですが………」




春馬くんが言葉を詰まらせたのを見て、その先は私が続けた。




「どうしても別れたくなかったのは私なの。須賀先生と知り合う前と知り合った後じゃ、私の人生180度違うの。先生を知らない頃には戻れないって思った。学校へ行こうと思えたのも、学校での噂に逃げずに立ち向かおうって思えたのも、全部全部…先生のおかげだったから。」





言い終えて、お母さんを見る。




すると…




「…ですって、お父さん。」




その声に、お父さんがリビングに現れた。




「お父さん!?何で!?」



何で、単身赴任中のお父さんがここに…?