失った物は帰らない






二度と







「きゃあああああ!!」




「ひっ…人殺しだ!!」





街の皆の悲鳴が遠くから聞こえる。




彼のワイシャツは白から女の人とお揃いになっていく。




真っ赤な、真っ赤に血濡れた赤い………





「……うそ……だ……」




ケーキの箱が指から滑り落ちた。


情けなく落ちたケーキは歪んだ形で地面にたたずむ。




「――………」




ふと自分の名前をよばれた気がして私は彼を見下ろす。



生気の失ったその顔はじっと私を見つめていた。




駆け寄りたいと願う心は足には届かない。



「――……」




彼はもう一度私の名前を呼び、笑った。




青白い顔で、笑って言った。






「―――――」







その言葉は呆然としていた私にはこう聞こえた。














サヨウナラ、と。