「ついて来い」


どんな怒号が飛んでくるのかと身構えていたが、それは杞憂に終わることとなった。

有無を言わさぬ命令口調ではあるが、その声は思っていたよりずっと柔らかく、優しい響きだった。


「どこに行くの?」


私の言葉には答えず、先を行く背中を困惑しながら追いかけていると、恐らくこの王宮内で一番大きいであろう両開きの扉の前で、エリオット王子が立ち止まった。


「社交ダンスは好きか?」


その言葉と同時にエリオット王子は重そうな扉の右側を、片手で軽々と開けて、空いた方の手で私の手をすくい上げた。

社交ダンス――上・中流階級の者達が交友のために嗜むもの。
私は知識にだけあれど、当然、実際に踊ったことなどない。


「ちょっと待って、あなたまさか」

「そのまさかだ」


エリオット王子は私の手を離し、慣れた手つきで扉側に一番近いシャンデリアから垂れ下がった紐を引いた。

片手に持っていたキャンドルの火をシャンデリアのそれにも点火させて、元あったようにまた紐で天井の方に固定する。