「ロゼッタ」
キャンドルの明かり一つの薄暗い部屋の扉が静かに開かれたと思えば、低く落ち着いた声で名前を呼ばれて、私は少しだけ身体を硬直させと。
「!エリオット王子……」
「どうした、こんな時間に。調べ物か?」
開け放たれた扉の縁に寄りかかるようにして立っているエリオット王子は、私が手にしていた分厚い革製の表紙の本に視線を落とすと、訝しげにそう問いかけた。
エリオット王子はまだ正装のままで、そこから推測するに、こんな遅い時間まで公務に当たっていたのだろう。
私は慌てて本を閉じて、元あった棚に戻し、キャンドル立ての取っ手を掴んでそれと一緒に扉の方へ歩み寄った。
「何でもないわ。眠れなくて、ここにいただけ」
またこんな時間に出歩いていたとなれば、今度こそきつく叱られてしまうだろうか。
内心冷や汗をかきながら、エリオット王子の言葉を待つ。


