貴族の暮らしと云うのは、随分と規則的で変化に乏しいもののようだ。

たった数日でそう判断してしまうのは些か早計かとも思うが、そう思えてしまうくらいには私は退屈をしていた。


「ねえ、ヴァローナ」


私の身体の倍以上の大きさの家具をいくつ置いても、ダンスができてしまいそうな程に広い自室の真ん中で、私は勉強机に座っていた。

ふと思い立って顔を上げると、私を監視するように部屋の扉の前に立っていた褐色の肌の青年と目が合った。
青年改め私の監視係、ヴァローナは無表情のまま一切の感情の変化も見せず、深々と頭を下げた。


「申し訳ございません。できません」
「まだ何も言ってないわ」


気分転換がしたい、と提案するつもりだったのだけど、その思考は彼に読まれてしまっていたらしく、口にする前に跳ね除けられてしまった。


「エリオット王子はどうしているのかしら?」


あの夜以来、彼と顔を合わせていない。

別に気になるとかそんな事ではないけれど、勉強の手を止める言い訳に使わせてもらおう。