「そう……名前は?」


格好を綺麗にしているだけでなく、背筋に棒でも入れているのではないかというくらい、男は地面に対して垂直に立っていた。

姿勢を正したままで疲れないのだろうか、と思いながら顔を上げて、男に問いかける。


「エリオット様は、私の事をヴァローナ、と呼んでおります」

「ミスター・ヴァローナ?」

「敬称は必要ありません。エリオット様の奥方であれば、私の主人同然ですので」


まだ結婚していないんだけれど、と言いかけて口を噤む。

真面目そうな彼に対してそんな軽口を叩いたところで、大した反応は得られないだろう。

私は彼と同じように背筋を伸ばして、踵の高い靴を履いた私よりも頭一つ分以上背の高い彼を、見上げた。