「ねえ、ところであなた……」
「髪」
妹の身辺情報を聞き出そうと口を開きかけて、私は固まった。
瞬きをしたあと、エリオット王子の整った顔が、目と鼻の先にあったからだ。
近くで見ると、よく手入れされている事がわかるブルネットの髪が、視界に端に揺れる。
彫りの深い目鼻立ちと、エメラルドを思わせる瞳。その奥で、妹に顔のよく似た女が、間抜けに目を見開いて固まっているのが伺える。
「……切らせてしまって、悪かった」
私の肩口にかかる髪の毛を一房取り、エリオット王子は恭しく私の髪に唇を落とした。
当然、私の髪は短いのだから、そのような所作をされるとそれなりに距離感が近くなる。
私ははっと我に返って、男を突き飛ばそうと両手を前に出したが、その前に相手がひらりと軽い身のこなしで私から離れてしまったので、私の手は虚しく空を切るだけだった。
「後で理容師を呼ぼう。せっかくの綺麗な髪だ」
エリオット王子は、ふわりと花が綻ぶように優しく、慈しむように微笑んだ。
今まで、冷たい氷のような表情しか見ていなかったから、その衝撃は凄まじく、私は呆気に取られて口を薄く開いたまま固まってしまう。
「……ふむ。君を口説き落とすには、少々骨が折れそうだ」
乙女のように花も恥じらう姿を全く見せない私に、エリオット王子は肩をすくめて見せた。


