冷徹王子と成り代わり花嫁契約


「あなた、まさか私の妹にこんなことしてたわけじゃないでしょうね?」

「そんな訳ないだろう。奥ゆかしい娘にそんな事が出来るか」


さりげなく妹を淑女として褒めるついでに、私の事を貶された気がするけれど、私は少しだけ唇を尖らせるだけで、その言葉について、それ以上は言及しない事にした。


「それで、何かご用かしら。レディが朝の支度も終わっていないというのに乗り込んできたという事は、急を要する事なんでしょうね?」


わざと棘のある言い方をしてやれば、王子はそれに気付いているのかいないのか、不思議そうな表情をして首を傾げた。

不快になったわけでも、嫌味な様子もなく、純粋に私の問うている意味がわからない、といった雰囲気だ。


「君の様子を見に来ただけだが」

「……は?」


妹の一件の事だろうか。

落ち込むも何も、血の繋がりがあるとはいえ、一度しか顔を合わせた事のない人間の死など告げられても、特に何か思う事はない。

ただ私は、これから起こるであろう事件の臭いに鼻をつまんでいただけだ。

妹として生きる事を一度拒絶をしたのだって、妹がどうと言うよりも、面倒事に巻き込まれたくなかっただけ……なんて言ったら、薄情な女だと思われてしまうだろうか。