「…悪い、俺、そういうの分かんねぇわ」


俺がそう言うと、ピタッと洗い物の音が止まる。


涼太は眉を下げ、困ったような笑顔で言った。



「…知ってるよ」



「昔からけーちゃんが、女の子に興味ないのも、」


「モテすぎていろいろ基準分かんなくなってるのも」



……そうなのか?


俺、いろいろ基準変なのか?



「…別に変ではないだろ」


女子に変なことした覚えないし



「…女の子に告白されすぎて、好きって何?状態になってるし、」


「バレンタインは貰いすぎてお腹壊すから休むし、いろいろ変だよ」



…変なのか



「…そのせいで…けーちゃんの分が俺にまわってきて…俺、めっちゃ食わされて…お腹壊して…一回、けーちゃん恨んだよね…うん…」



「…うわ、…苦労してんな…」



「他人事かよっ」


涼太は、いつものようにツッコミをいれると、ふぅっと息をはいた。



俺は、涼太のため息が聞こえ、ソファーから起き上がる。



「…怒ってんの」


…涼太が怒ったとこ見たことないけど



「…怒ってないけど…」


涼太はそう言いながらも、何かいいたげな顔をしている。



…なに…その顔…



「…好きじゃないなら、思わせ振りなことはすんなよ」




……思わせ振り…


…てか…



「…やっぱ涼太怒ってる」



…涼太が怒ったとこみたことねぇのに(←2回目)



「…怒ってない」


…あ……


懐かしい光景がパッと頭に浮かぶ。



…いや…ある…


1回だけ本気で怒ったとこ…見たことある…



中学生の頃、俺をいじめてたやつに、



…本気で怒ってた。



…思い出した



「…けど……そんなんなら…」



俺は、懐かしいなぁと思いながら涼太を見つめる。




「……取っちゃおうかな…」