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門の前に来ると、ずっと足を止めなかった蛍くんがピタリと足を止めた。
そこから見る景色はいつもとは違う。
学校の中から見る、門の外の景色。
風がふいて、スカートと髪を優しく撫でるように揺らした。
「……ありがとう」
……へ…
綺麗な黒髪がサラサラと揺れて、
蛍くんはこちらへ振り返った。
「…俺の夢、叶えてくれてありがとう…」
そう言った蛍くんの頬が、一瞬だけキラリと光った気がした。
わわっ…
…蛍くんが…泣い…てる…?
びっくりして一歩近づくと、蛍くんは隠すようにまた門の方へと顔を向けた。
「あの、蛍くんの夢って…」
「ららが学校に行くこと」
……それが、蛍くんの夢…
「俺、なんも持ってなくて、」
「やりたいこともなくて、まずなにも興味とかなくて、」
「そんな空っぽの俺の、」
「……初めての夢」
「叶えてくれて…ありがとう」
私はふたりに助けてもらったのに、
こんな、
素敵な言葉をもらっていいんでしょうか?
「…私の初めての夢を叶えてくれたのも」
「蛍くんと涼太くんです」
「…ふふっ…ありがとうございます!」
私は蛍くんの背中に微笑んだ。
顔が見たくて、そっと蛍くんの顔をのぞくと、ほっぺをムニッとつかまれてしまった。
「…むぅ…」
……つかまってしまった…
「……バーカ」
やっと見えた蛍くんの顔は、無邪気に笑っていた。
…あれ…?
泣いて…ない
勘違いかぁ…
「ほら、行くぞ」
蛍くんが頬をつかんだまま歩くから、うまく歩けなくてジタバタ。
「…け、蛍くん…はなひてくだひゃい~」
「ちょっと何言ってるかわかんねぇ」
「むぅ~~」



