光流さんはずっと、自分を責めていたのかもしれない。
けーちゃんがいじめられていたことに、気づけなかった自分を。
ずっと、ずっと。
そんな自分を、
許せなかったのかもしれない。
「別に……母さんが謝ることじゃない」
「……その、本当にもう大丈夫だから、俺」
照れくさそうだったけど、ちゃんと心がこもってる。
俺が微笑みながら見守っていると、けーちゃんがこっちを向いた。
そして安心したように笑った。
「…涼太とバカみたいに廊下走って、怒らてっけどな」
「そんで面白い先生がいてさ、二人で笑い堪えんの必死だった」
「……そんなの、昔の俺が見たらびっくりすんだろーな」
そう言って無邪気に笑うけーちゃんを見ていると、すごく涙が溢れそうになる。
……ほんと…よく笑うようになったね
いじめられていた頃のけーちゃんは、笑うことも泣くことも忘れてしまったかのようだった。
そのくらい笑わなかったし、泣かなかった。
でも俺と過ごしていく日々の中で、笑ったり泣いたり、拗ねたり怒ったり、いろんな顔をするようになった。
俺はそれがすごく、嬉しかった。
だから今でも、けーちゃんが笑っているところを見るのが好き。
それからは、3人で他愛もない話をしながら笑いあった。
「とろこでさ…蛍、なんでバナナなんか買ってきたの?」
「は?!母さんが買いに行けっつったんだろ?!」
「…そうだっけ」
なんのために、こんな朝からバナナ買いに行ったんだ俺は…と頭を抱えているけーちゃんを見て、
俺と光流さんはお腹を抱えて笑ったのだった。
…けーちゃんに話したいことあったんだけど…
……まぁいっか
そう思えるほどに、二人が幸せそうに笑うから、俺も自然と笑顔になっていた。



