「大丈夫だっつってんだよっ」



_ピクッ



一階から、けーちゃんのそんな怒った声が聞こえてきて、


俺は思わず寝転がっていた体を起こした。



わ、けーちゃんが怒鳴るとか珍しい…


…喧嘩?



_パタンッ



その後すぐに、玄関のドアが閉じる音がして、シーンと静かになった。



“『大丈夫だっつってんだよっ』”



確かに、けーちゃんはそう言った。


……また、あのことかな



俺にはひとつ、思いあたることがあった。



「………」


俺はきゅっと拳を握りしめてから、立ち上がった。



階段を降りて、リビングのドアに手を伸ばす。



「………」



そっとドアを開けると、そこには肩を震わせているけーちゃんのお母さんがいた。



俯いているせいか、まだ俺に気づいていないようだった。



一瞬驚いたけど、すぐに悲しい気持ちになって目を細めた。



…きっと、泣いてる



ゆっくり近づいて、小さな背中に俺は優しくトンと触れる。



「ひっっ」


するとやっとこっちに気がついたのか、変な声を出して、


すごく驚いた顔をしながらこちらを振り返った。



その表情がちょっぴり面白くて、ふっと微笑んでしまう。



するとけーちゃんのお母さんは、ハッと我に返ったように涙を雑に拭った。



そして、ふっと笑いながら言った。



「涼太くん来てたの?おかえりっ」



“おかえり”


いつも俺がこの家に遊びに来ると、けーちゃんママはそう言って笑ってくれる。



俺はそれがとても、好きなんだ。



ここにいていいよって言われてるみたいで、家族みたいに暖かいから。



「…ただいまっ」