「…はぁ…」
できるだけゆっくり歩いたはずなのに、すぐに家に着いてしまいました…
帰り道に、お母さんに嘘をつくシミュレーションを頭の中で何回もしたのに、
まだうまく言えそうにないくらい、心臓がドクドクと速い。
…お母さんにあと何回…
……私は嘘をつくんだろう…
そんなことを考える度に、胸が苦しくて、お母さんにどんな顔をして会えばいいのか、分からなくなっていく。
…私って…最低ですね…
ドアの前で笑う練習をしてから、私は家の鍵を開けた。
「………」
私は“ただいま”も言えずに、そのまま黙って家に上がった。
「…あれ…?…ららどうしたの?」
少しすると、お母さんのそんな声が聞こえて、私は顔を上げた。
顔を上げると、お母さんはすごく心配そうに私を見つめていた。
その表情を見て、心に何か針でも刺さっちゃったんじゃないかってくらい、
胸がチクリと痛んだ。
…何か言わなきゃ…
さっき練習した笑顔を作って、私は言った。
「今日ね、ちょっとしんどかったから帰ってきちゃった」
…い…言えた…
「…らら……」
「………」
…あれ…?
なんでそんな…
…お母さんが泣きそうなの……?
お母さんの声は震えていた。
そしてすごく悲しそうな顔で、私の肩を掴んだ。
「…いつまでそうしてるつもりなのっ……」
…どういう…こと…
お母さんのその言葉を聞いて、私は作り笑いも忘れて、
お母さんの潤んだ瞳を見つめていた。