「何がいいと思う?」
俺はまた、珈琲とにらめっこをしながら、涼太にそう問いかけた。
珈琲が好きな涼太なら、眠ちゃんの好きそうなものを選んでくれるだろうと、思っていたからだ。
でも俺がそう問いかけても、涼太からの返事は返ってこなかった。
………?
俺は不思議に思いながらも、珈琲選びに集中していると、
涼太の静かな声が俺の耳にしっかりと届いた。
「ららちゃん、大丈夫かな」
聞いた質問とは全く関係のない答えが返ってきて驚いたけれど、
すぐに自分も涼太と同じ気持ちになった。
それは、俺も心の隅でずっと、涼太と同じことを考えていたからだった。
「………」
ららが一人で学校へ行って、過呼吸になって俺の家に連れてきた今日の朝。
俺達がそろそろ学校へ向かおうとした時、
ららはまた俺の家にいればいいだろう、と俺は思っていた。
……けど…
「……あんなの…初めてだった…」
俺は呟くように、そう言った。
珈琲を見つめながらも、頭の中にはららが浮かんでいる。
『ららはここにいていいよ』
俺がそう言うと、ららは少し悲しい顔をした。
そしてそれをごまかすように、ららは笑った。
_『…いえ…私…家に帰ります』
__『…嘘をつきます、体調が悪いって』
お母さんに嘘をつくことを悲しんでいたららが、
あの時、自分から嘘つくと言った。
「あんなのって?」
涼太は不安そうに、そう言った。
…もう…涼太には言っていいんだよな…
ららが不登校ってこと、今までのことを見てきて、もう涼太は言わなくても分かってる。
…3人で一緒に学校いくことも提案してくれたし…
…でもなんか…今まで言いたくても言えなかったこと言うのって…
…なんとなく……すげぇ緊張する…
俺はドキドキと速い心臓をごまかすように、深呼吸をする。
「あいつ、母さんに不登校のこと秘密にしてんだよ」



