海に入っていく人の影を見た。
あの日は、突き刺すような寒さが肌を貫いたのに。


「ねえ、何をしてるんですか?」


問いかけると、笑って、


「海を見てるんだ」


と言った。



一歩、一歩、進むたびに溶けていく。
夕日を飲み込む海を私はその日初めて見た。


「待って」


追いかけて、そう呼ぶのに、聞こえないみたいで。
波音が風を切って、遮られた私の声は
......いや、きっと彼は聞こえないふりをしていた。