しかし零は、そんなわたしに優しく笑いかけて「それは違うよ、縁ちゃん」と言った。


「俺、縁ちゃんの能力とか地位に恋したんじゃない。一人の“人”として、縁ちゃんが好きなんだよ」

「零、」

「うん、だから付き合おう、縁ちゃん」

「ごめん、それは無理」


「てか、早く帰って」と無理やり追い返すと、零は悲しそうに眉を下げて帰っていった。そんな零が可笑しくて、不意に笑みがこぼれる。



家に帰って傷口を消毒しながら、先ほどの告白を反芻した。
零に“人”として好きだと言われたことが、素直にうれしかった。地位や権力なんて関係ないと断言した零に、少しだけ元気をもらえたような気がしたんだ。


きょうは何から何までついていない日だったけれど、悪いことばかりでもないようだ。



ふと窓から空を見上げると、雨は、いつの間にかすっかり止んでいて、雲の間からは綺麗な満月が綺麗に浮かんでいた。