「あ、いや、性別的には男だけど」

「わー!相澤くーん、縁がデートするんだってーわたしなんて別れたばっかなのにー」

「いやいや!違う!幼なじみの大学生と、ちょっと出かけるだけだって…」


慌てて言葉を付け足して、ふと相澤を見やると、相澤は見たことがないほど目を丸くして、わたしを見ていた。その顔は、“お前、大学生と付き合ってんのか。それはナイわ”とでも言いたげだ。


「相澤。わたしが学生と付き合うわけないでしょ。24手前のおばさんが相手にされるわけないじゃん。だからそんなに引かないでよ」

「いや、そうじゃなくて…いや、なんでもねぇ」

「うん、じゃあ、わたしちょっとコーヒー買ってくるわ」

「あ、天野、」


会話を遮ってその場から逃げるように、オフィスを出た。



相澤のあんな顔を見たのは、初めてだった。

男とはいえ、同期の中で一番に仲のいい友達で、なんでも話せる貴重な存在だ。悪い奴じゃないこともよく知ってる。

そんな相澤があんな顔をするなんて。社会人が大学生と付き合うというのは、世間的によろしくないという事実に、そこで初めて気が付いた。

零と付き合う気なんてさらさらないけれど、なぜか胸が苦しくなった。