【医、命、遺、維、居】場所

稔さんは数年前に再婚している。


長男の為というのが大きいと柚希は言っていたな。





上手くやっているようで、ピンチヒッター先の産婦人科医院で奥さんに会ったと柚希経由で聞いた。


ただ、稔さんが俺のいるここを拒否したそうだ。





柚希に任せているという稔さんの言葉もあって、杏梨ちゃんについては見守ることに決めたものの、病院については複雑だったそうで謝られたと言っていた。





『貴女は義理とはいえ私の姪に当たる人で、私の家族なのに、あの人が病院には行きたくない、主治医だって・・・。って。私は貴女の病院でも、主治医が誰でも代わる必要なんてまったく無いのに。』と。






柚希は、『気持ちは嬉しいです。でも色々悩んでしまってストレスを溜めてしまうのは大敵だから、気にせず赤ちゃんを第一に考えて大丈夫。と言って帰ってきた。』とあの時みたいな軽い口調で話してくれた。





落ち込んでいると分かるようになったけど、伸ばしかけた手を下ろし、握り締めた。




頭を撫でた遥と、愛おしそうに頬笑む柚希を見てしまったから。






産婦人科医として切磋琢磨してきた仲だけどやっぱり、遥と俺は似て非なるものだったんだと、突き付けられた。







同じことは俺には出来ない。



触れることも、励ますことも出来やしない。








「柚希と遥の間に、割って入るだけの隙間も、無理矢理奪う勇気も、俺には無いんだ。」







たとえ、2人にその気が無くても。










「柚希の隣には、遥がいればいいよな。」









な、杏梨ちゃん。






【巧side end】