【医、命、遺、維、居】場所

【巧side】





「はぁーやっちまった・・・」





月明かりと波の音。



と、俺のため息。







分かっている。親父が患者を一番に考えていることぐらい。






お袋が良く言っていた。





『お父さんが一生懸命仕事している姿を見ていたら、家庭と仕事、どっちが大事だなんて言えないわ。』って。




今際の際だって『お父さんは仕事を選んだけど、悲しくなんてないわよ。苦しんでいるの分かっているから。ただね、悔しいだけなの。お父さんが頑張っているのに、お母さんは頑張れなかったから。だから、お父さんを責めないであげてね。』






そんな仕事人間の、他人ばかりに気を向ける親父が、大嫌いだった。






『家族』という存在に縛られている。


どれだけ気にしないようにしても『家族だから』という呪縛に、俺も・・・多分柚希も。





杏梨ちゃんも親父も、こんな日がいつか来ると分かっていたはずなのに心がついていかない。



頭と心は別物だって思い知った。