「(来てしまった・・・!!!)」








勤務終了後、小児科外来診察室の前。



柚希が小児科の当直の時は、呼び出されていなければここにいる。









「(遥に言われたから、じゃないからな・・・)」









誰にでもなく言い訳して、ノックをするも応答がない。







「いない、か・・」








残念という感情ではなくホッとしてしまったのは、杏梨ちゃんのことに向き合えないと思ってしまっているからだ。




遥の様にフレキシブルに出来ないのも原因の一つなんだろうな。








因みに、小児科の当直はバラエティー豊かだ。




食べた氷にカビが入っていて、しかも夏場で大量に食べてしまい腹痛で搬送されてきたり。


風邪で免疫力が低下していたところに、運悪く買ってきた鉢植えの土の中にカビが付着していたことで肺炎になったり。


カビは氷になっても死滅しないから厄介だ。







他にも、予防接種後にギランバレー症候群とか、結核とか、銀杏中毒とか。


家族全員でレジオネラ症とか。




まぁ、産婦人科でも氷食症とか、肺血栓塞栓症・・いわゆるエコノミークラス症候群とかあるけれど。







「巧?」




「柚希・・!!」






「どうしたの?今日は当直じゃなかったよね?」








ドアの前に立ちっぱなしだったので、戻ってきたのだろう柚希は不思議な顔をしている。









「あ、いや、・・・ちょっといいか?」






「?いいよ、入って。」








質問に答えなかったが、招き入れてくれた。




なんでも搬送された急患は、溶連菌による扁桃腺炎だったらしい。







「容体が落ち着いたから戻ってきたんだけど。・・で、どうしたの?」







入れてもらったミルクコーヒーをもう一口飲んで切り出した。