【医、命、遺、維、居】場所

・・・・・数時間経って勤務終了。






一人になりたくて、人の寄り付かない裏手の非常階段にわざわざ来たのに。









「はい、おつかれさま。」



「・・お疲れ。」








ヘラ顔に少しの疲れを滲ませたいつもの調子で渡してくるもんだから、つい受け取ってしまった。






でも好物である温かなそれを飲む気にはなれず、持ったまま手すりにもたれ掛かる。







「夕焼け、綺麗だねー。」







確かに、綺麗な夕空だと思う。



ペンキで幾重にも塗った様な、そんな作り物のようだとも思うが。








「こっちは無事に産まれてきてくれたよ。お母さん達の経過も順調。」






そっちは?と聞かないあたりが、空気読みすぎてて悔しい。



ヘラ顔のくせに。







「麦傍先生も頑張ってくれてさ。駒枝さんなんか『こういう時のコマエさんだからね!』なんて張り切っちゃって。発破かけられたこっちが大変だったよ。」








背中越しの遥は、いつになくおしゃべりだ。




ヘラ顔のくせに。







「今日もたくさんのおめでとうを言って、たくさんのありがとうを貰ったよ。」







俺だって、おめでとうとありがとう以外の会話をなるべくだってしたくはないんだよ。







ヘラ顔のくせに。








「僕に巧はいつも、『麦傍先生を甘やかすな』って言うけどさ。」






当たり前だ、何回言わせる気だ。





ヘラ顔のくせに。








「たまには甘やかすことも大切だよ。」








違う、甘やかし過ぎ、なんだよ。




ヘラ顔のくせに。








「我慢だって良くないよ。」






麦傍は我慢したことがないって気付けよ。





ヘラ顔のくせに。









「僕は、ずっとここにいるからさ。」









ヘラ顔のくせに。








「泣きたかったら、泣けばいいよ。」









ヘラ顔のくせに。










「泣き止むことが出来るまでさ。」










ヘラ顔のくせに。








「な?巧。」








ヘラ顔のくせに、ヘラ顔のくせに・・・・・








「俺、は、幼稚園児じゃ、ないんだよ。」