【医、命、遺、維、居】場所

「縹さん。」







俺より先に到着した稔さんは、杏梨ちゃんの前で佇んでいた。




その背中はあの時と変わらず、父親を感じ取れない。









「手続きは紫と同じですか?仕事、抜けてきたんで、戻らないといけないんですが。」






「・・分かりました。ご説明いたしますので、こちらへお願いします。」









内開きのドアを開ける。






書類は柚希が用意してくれたから、ここから先は俺が向き合わなければ。





抑揚の無い声色でも、事務手続きの為であっても、ここまで足を運んでくれたのだから。










「ランドセル・・・」









ドアから一歩踏み出した右足を、稔さんは止めて振り返る。









「ランドセル、買ってくれたんですね。」









杏梨ちゃんのそばには、この間買ってきたランドセルが置いてある。











「はい、傅雖先生が。」










俺も選んだことは伏せた。



聞きたくないだろうから。










「そう・・・、ですか。」










何度も何度も、呪詛のように願うだけ願ったこと。




俺の希望的観測だったのかもしれない。





でも、歯切れの悪いその物言いが逆に、感情を少し見せてくれた気がした。