【医、命、遺、維、居】場所

【巧side】







帝王切開と急患と急変と、予定が予定通りに終わった試しがほとんどない。






「まあそれも、産婦人科の特徴の一つか。」






手術室の脇にある長いすに腰掛けて、息を吐く。




ふと目をやった先に、手をあげこちらに歩いてくる遥が見えた。






「巧!どうだった?」




「どうもない。なんとかなっただけだ。そっちは?」





「こっちもなんとか。耐えてくれてよかったよ~お母さんも赤ちゃんも。」






手にのしかかるのは、一人の女性だけでも、その家族だけでもない。


赤ちゃんという名の希望もだ。



この男は、そんな重圧をヘラッと笑って受け止められるからイラつく。



・・・まあ、正直いうと羨ましいだけだ。





ヘラヘラしていたって人望があって、慕われて、そんでもって柚希をよく知っていて。




そういや、柚希が言っていたな。



『巧は遥と似ているようで似ていないよね。目指すところは同じなのに、やり方がまるで違う。だけど、それでいいんじゃないかって私は思う。同じ部分と足りない部分があって、同じだから高め合えて、足りないから補い合えて。私もそういうシンメトリー欲しいなー。誰かと対になりたいよー。』







同じだから嫉妬して、足りないから羨む。







「(分かってはいるけど、この男は・・・)」






手術後で興奮が冷めないのか、ヘラヘラ顔のままいかに母子が頑張ったかを語っている。




この、無自覚ヘラ顔め・・・・!








「ひ、ひゃふみ?」








ヘラ顔を崩したくて頬をつねったのに、ヘラはヘラのままなのか・・・!








「よかったな。」




「うん、よかった!すごくよかった!」








意味不明に頬をつねられたくせに、追及せずまた感動に浸っているのも遥のヘラ顔のなせる技か。





これまた悔しいことに、6年前このヘラ顔に助けられたのも事実なんだよな。