【医、命、遺、維、居】場所

「いいランドセルですね。」



「分かります?一目惚れしたんです、これ。」







杏梨のそばに置いあるランドセル。




巧と色々見て回ったんだけど、2人とも直感的に選んでしまった。




色は巧の希望通り、ベーシックな赤。


機能性より軽さ重視、それでいて少し可愛らしいデザインのもの。






「今の小学生の荷物事情は大変らしくて。これなら、小柄な杏梨が背負ってもなんとかなるかなって思いましてね。」




「杏梨ちゃんもきっと喜んでいますよ。あ、傅雖先生、そろそろ時間じゃないですか?」






「そうですね。」







もっと看護師との会話を楽しんでいたいけれど、そうもいかない。


今日は手術の予定が詰まっている。







「杏梨、行ってくるね。」









撫でた頬は、少しあたたかみが増している気がした。














それから数時間、何件かあった内の短時間の手術は無事終了した。








「う~んっっ・・・!」








凝り固まってしまった体を、大きく背伸びをしてほぐしていく。







「お疲れ様です。こう手術が立て続けだと、傅雖先生の方が参らないか心配になります。」





「ありがとう。でも頑張っているのは患者さんの方だからね。私はその手伝いをちょこーっと、しているだけ。医者なんてそんなもんよ。」






「医者の鏡ですね!」




「えぇー?お世辞でも嬉しい!」








「お世辞じゃありませんよ。傅雖先生、最後の子のカルテです。」





「ありがとう、看護師の鏡様。」





「ふふっ、どういたしまして。」







看護師とのおふざけ会話も息抜きの一つ。



この子の手術が終われば、小児科は落ち着くから産婦人科に直行かな。




向こうも手術予定があったし、予定外が起こるのは産婦人科の方が高いし──────







「傅雖先生っ!!」








確率の問題だけで、こっちにだって、どんなことにだって、予定外が存在するってことを。








「杏梨ちゃんが・・・っ!!!」








私は忘れてしまっていたみたいね。