伸ばした手。届かない声。気づいて恋心。

【初葉side】


「山岡さん、ここの資料って…」

「ああそれ、これとこの資料の追加。ここは
補足必要なの、理解できない?」

「す、すいません…」

「次は気をつけて。」

嗚呼、イライラする。どうしてこんな簡単なことも理解できないのか、馬鹿なんじゃないの?





いや、疑問系の方が余計失礼だ。



馬鹿だなこいつ。入社半年だがなんだか知らないけど、私は新入社員を優しくするほど、優しい人間じゃない。


むしろ、最初が肝心であるのだから。

「いちはー、顔怖いよ?ほら、新入社員の花江くんでしょ、いちはの直属の部下でしょー?もうちょい優しくしよーよ、ねっ?」


可愛い。今話したこいつは、田中綾人(タナカアヤト)26歳のこの男。

私の彼氏であり、私の半年後の婚約者だ。



私より普通に可愛い。
綾人は誰もを魅了する笑顔、取引先にも大人気の笑顔であり、何より彼のオーラは優しい
だが、思ったことを素直にいう性格だから、余計周りからは好かれやすい。

もちろん、男女共に。


それに比べ私、25歳、山岡初葉(ヤマオカイチハ)は、

無表情で、クールと言われ、そこら辺の男よりも、荷物を持ち、職場女子にも、「イケメンすぎる初葉」と呼ばれ、時々、道で歩いているだけで、女子から声をかけられる始末。





でも、綾人ですら知らない。私が無表情になった理由なんて。まぁ、誰にも言ってないだけなんだけどね。