もう、頬に絆創膏は必要なくなった。

しかし、跡が一生残ってしまいそうだ。

でもメイク後なら。
ファンデーションでカバーしちゃえば、傷があったなんて信じられないほどの仕上がりだ。

最近の化粧品は凄いもので、一日中お直し無しで、もう夜だ。

あと1時間で今日の勤務も終わりとなった頃。
きっと、そろそろあの男が…。

「いらっしゃいませーって、また貴方ですか」

乾さんはそろそろ呆れた声色。
きっと、もう私とあの男の関係がカレカノだなんて甘いもんでは無いことは分かっているのだろう。

それもそのはず、相田刑事はあれから毎日、閉店間際に顔を出す。

しかし私は、避け続けていた。

いくら相田刑事は悪くないと言っても、割り切ることは難しかった。
しかも相手は仕事ではなく、プライベートとして押し掛けてきている。

私が対応しなきゃ行けない理由は一切見つからない。

「すみません、もう来ないで頂けませんか」

慣れたように、いつもと同じセリフをなるべく冷静を保って口にする。

「そうはいかないんです、お願いします、どうしても栗田さんに協力していただきたいんです」

どうやら彼は、17年前の事件の真犯人を探しているようだ。
それは、毎日繰り返す彼の主張で薄々感じていた。

「私は何も知らないのに、何を聞くって言うんですか!
しかも、もう17年も前なんですよ!?
見つかりっこ、ないですよ…」

思わず、私の声がヒートアップする。
仕事中なのに。
分かってるけれど、私の1番触れられたくない奥底のデリケートな部分を、この男が掴んでいるのを感じると、黙ってはいられない。

「千愛ちゃん、さ、裏へ行って。
あ、貴方も…どうぞ」

お店は私に任せて、と耳元に呟かれ、乾さんは話の場を与えてくれた。

本当に、申し訳ない。
二人きりなんて、気が乗らないけれど、乾さんの手前、逃げ出すことは出来なかった。