結局最後には彼が勝った、ミニ競走のゴールは私達が通う高校の正門になった。
 私立由良羅高等学校。 全国でも屈指の名門私立高校だ。
 昇降口の靴箱で上履きに履き替えると、明るい女子が私を呼ぶ。
 「おーい、おはよー! 3年生はクラス替えがないから、今年もよろしくねー!」
 「ユッキー、おはよ。 そうだね、またくだらない話がたくさんできるね。」
 「うん! ってあれ?」
 茶髪でポニーテールの彼女-雪雛は、私の後ろで同じように靴を履き替えた彼を見る。
 「今日も一緒に登校してたの。」
 彼は睨む。
 「ウッセ。 それに、“今日は一緒に競走してた“の間違いだし。」
 「どっちみち一緒に来てるのに変わりはないじゃん。」
そう言って、後ろの彼から私に視線を戻す。
 「あんたも大変ね。 いくら家が隣だからって、毎日どうでもいい奴と一緒に登校なんて。」
 彼女が呆れた顔をすると、彼が反論する。
 「どうでもいい奴とはなんだ!」
 「本当のことを言っただけよ!」
そうして、口喧嘩が始まる。
 この二人はいつもこうだ。
 お互いが顔を合わせた途端、すぐにささいなことで言い合いになる。
 私がお手上げ状態でいると、前からやんちゃそうな金髪の男子が走ってきた。
 「ウィーッス! おいおいまたお前らけんかしてんのかよ。 相変わらず仲良いな。」
 「仲良くないし!!」
 2人の声がハモる。 私はまた口喧嘩を始めた彼らを笑いながら見ている、走ってきた彼-多田幹に声をかける。
 「おはよう、ミッキー。 さっきからずっとこうなの。 もうちょっとだけ待ってあげて。」
 「よー! マジか。 あいつら毎日毎日飽きもせずに、よくやるなー。」
 「ホントにね。」
 私達は顔を見合わせて笑い合う。
 雪雛と多田幹は中学生の時からのいつもよくいる友達だ。 彼らも私達と同じく、“幼なじみ“という関係で、“恋人同士“でもある。
 「おい、そろそろ行くぞ雪雛。 毎度毎度世話を焼かせんなよ。」
 「ちょっと待って、多田幹。 こいつったら-」
 「あーもー、めんどくせー。」
そう言うと多田幹は、彼女の右腕を優しく、それでいてしっかりと掴んで引っ張り、教室に向かって行った。
 「さてと。 じゃあ私達もそろそろ行こうか。 大丈夫?」
そう聞くと、彼は不思議そうな顔をして、先に行く2人を見る。
 「あいつら、まだお互い、名字で呼んでんのかよ?」
 私も見る。
 「みたいだね。 ここだけの話、ユッキーはちゃんと“香“って呼んでほしいみたいだけど。」
 「マジか。 俺もここだけの話、ミッキーも“宙“って呼んでほしーんだってよ。」
 「何それ。 ってことは、すれ違ってるってこと?」
 「まあそうなるな。」
そう言って、彼は考え込むように腕を組んだ。
 「ちょっとお節介焼かねーとだな。」
 私を見る。
 私は頷く。
 それを見て彼は笑い、
 「じゃあ、早く行かねーと!」
と言って走り出した。
 私は彼を追いかける。 彼の広い背中が視界に入る。

 私は、友達と口喧嘩をしている彼を、元気よく校舎内で走る彼を、あと何回見れるのだろう。