十代にしか持ち得ない不思議な危うさを、
たぶん見える大人は少ない。

でも、見えてしまった。



その瞬間。
嘘のように、音が消えた。


乱れなく並ぶ人垣の横。

諦めたような微笑を浮かべ、
電車の近づく線路に、
彼女は羽ばたこうとした。


その腕を掴めたのは、
奇跡と言っていい。

強制的に夢から覚まされた紗良は、
痴漢でも睨みつけるかのように、
野暮な大人を振り返った。

「なっ…」

「そっちはだめだ」

遠すぎる。



すぐに相手が犯罪者ではないと、
気がついたらしい。