段々込み合ってきた電車の中、私はチラリと少し、あの方の本を読みました。


あぁ、やっぱりいい。


ゆっくりと、牛が反芻する時のように一文一文、いいえ、一文字一文字を噛み締めながら。

大事に読みたいのです。

だって、もうどれだけ待ったって、この方の作品は、新しく公開されないのですから。


段々とお分かりになってきたでしょう?
私の恋が、叶わない理由が。

そして、お気づきになった方は、私のことを笑うのでしょう?

「あいつは、馬鹿だ」
と。






学校へ向かう電車ほど憂鬱なものはありません。
長いのです。
長すぎるのです。

先程の駅で乗車してきて私の隣にきた若い男性は、本を手にして読んでいました。

でもそれは、あの方の本ではありませんでした。


まぁ、そっか。