そんなこんなで、同じ会社で少しの接点はあるものの、それほど親しくもない大和さんと結婚するまでに距離を縮めたのは、上司から薦められたお見合だった。


お見合相手が、大和さんだったのだ。


何故社内お見合? 上司よ何故にと問う暇もなく、そのお見合はスピーディーかつ順調に進み、あっという間に結婚式当日を迎えることとなる。


だって仕方がないじゃないか。私は元々大和さんに好感を持っていたのだし、プライベートで会う度にその気持ちは増していった。こんな嫁などいらないと彼のご両親や周囲に反対されるかと思ったら、ご両親はすでに他界されていて、お見合を薦めてきた上司が親のような存在で、そちらはえらく上機嫌だし。


私がレールに乗っかるのは当然のことだろう。


大和さん自身からも、お断りの言葉はなかったし……。


……嫌われては、いないと思う。


けれどどうだろう。お断りをされないものの、設けてくれたお祝いの席で上司からふと漏らされた、このお見合は大和さんから懇願されたもので、トントン拍子は大和さんの熱意によるもの、という私には秘密らしい事情を信じるには、頷き難い気持ちがどこかにあった。大和さんと私の間に流れる空気は、絶えず凪いでいて。


とても、穏やかな波すぎて。


「大和さん、大和さん」


「どうしたの?」


お見合後、私を見てくれる大和さんの目は、確かに今までの社内のそれとは少し違っていた。けれども熱量は、聞いてしまった秘密とは比例しないように感じる。


「大和さん、大和さん」


けれども、もう大和さんをこよなく愛してしまった私は、そんな少しの不安を胸に抱えながら、お見合とはそんなものかもしれないと己を説得する。


傲慢な女だ。本当どうしようもない。手放すことは、こちらからは出来なかった。


そうして私は妻として、今日初めて、大和さんの帰宅を迎える。