でも、他の奴らが果菜ちゃんを苛めないように爆弾を落としてやったから。
果菜ちゃんが『月の姫』と聞いて嫌がらせするようなバカな奴らはいないだろ。
タカトだけじゃなく、うちの事務所全体いや、彼女のことがお気に入りの西隼人夫妻まで敵に回す度胸のあるやつが果たして存在するのか?って話だ。

「報われない恋をした?」
旧知の灯海堂広告の須川さんに声をかけられた。

「あ、気がつきました?」
「姫を見るユウキの目が違ったからね」
俺を見る須川さんは笑っていない。目にわずかに哀れみが浮かんでいる。

この須川さんと俺たちの関係は長い。
仕事だけじゃなくプライベートで飲みに行き本音で話ができる数少ない業界人の一人。

「誰にも気が付かれないと思ったんだけどな」

「上手く隠せていたと思うよ。気が付いたのは俺とタカトくらいだろう」

「知り合ったのはたぶん俺の方が先なんですよ。好きになったのもね」
そう言うと須川さんはかなり驚いた顔をした。

「俺は何もせず、タカトは運も味方に付けて動いた。そういうことです」

「勝負は最初から決まっていた?」
俺はゆっくり頷き「後悔しましたよ。だから最後に嫌がらせをした」と少し笑った。

「そうか・・・。片づけたら飲みに行くか」

「是非」
ご馳走になりますとニヤリとして頭を下げた。