進藤貴斗は無口でクール。

そんなイメージが定着していて俺がこんなに公に話をするとは思っていなかったのだろう。
これで俺の本気が伝わればいい。
さっきまで俺や果菜の周りにいた女たちは笑っていない。社長が何か囁いていたようだし、表情を硬くしてる者、うつむいている者がほとんどだ。

西さんはニヤニヤしていて、その隣に立つ秋野は大きな口を開けて笑っている。
俺の大事な果菜は信じられないといった表情で両手で口を押さえるように立ち尽くしている。暗くてわからないけど、あれは真っ赤になってるな。
倒れないようにヒロトの嫁さんが支えてくれている。彼女に果菜の隣にいてくれるよう頼んだのは正解だった。

挨拶が済むと俺は一目散に果菜のもとに戻った。

果菜の周りを囲んでいた女たちは消えている。
「果菜を傷つけたら全力で潰しに行く」そう言ったのだ。あそこまで俺に敵意を見せられて残るバカもいないだろうが。

「果菜、今日の演奏どうだった？」
そっと微笑みかけたのに果菜は両手で顔を隠してこくこくと俯いている。

「素敵でした。でも、それよりも恥ずかしくて死んじゃいそうです」
果菜の両手の隙間から洩れた声に俺はわざとらしく「大変だ、人工呼吸が必要だ」と言い返す。

焦った様子でガバッと顔を上げた果菜の表情をみて俺は笑った。
コイツ、本気でキスされると思って焦ったんだな。

「人工呼吸は今はしないから大丈夫だ」
そう言うと明らかにホッとした顔をした。表情がクルクル変わってホントに見ていて飽きない。