「あら、ヒロトから電話だわ。ここででていい?」
私たちが頷くと、真紀さんは私たちに背を向けて綺麗にネイルされた長い爪先を器用に操ってスマホに出た。

私たちは真紀さんの会話の邪魔にならないように小声で話を続ける。
「ホントに付き合ってる人はいないの?」
私の問いに「いない、いない。いたらこんなにクサらない」と朋花さんは生ビールのジョッキをグイっとあおる。

「好きなヒトとかは?」
「んー、どうかな。気になる人はいるけど、その人から見てたぶん私は対象外なの。だから気になっても恋にはならないって気がする」
朋花さんの箸先にはもてあそばれる可哀想な椎茸の姿が。
つんつんと押されては転がされてつまんでは離され。つまり、朋花さんとその彼もそんな感じってこと?

「あ、ごめん。マナー違反だった」
私の視線に気が付いて椎茸は無事に解放される。朋花さんは肩をすくめてへへっと笑った。

「椎茸よりもその人の方が気になる」
そう言っても「別に、ただの知り合い。会おうと思わなかったら会わないし、会えない。向こうから連絡なんて来ないし」
と顔をしかめるその表情は”彼が好き”って言ってると思うんだけど。