いきなりイヤリングを着けられ驚いている果菜を残して「じゃあ、行ってくる。しっかり見てろよ」果菜の頭をぽんぽんとしてステージに向かった。
背後で「えー、いいなあ果菜ちゃんそのイヤリング素敵!」ヒロトの嫁さんの声がする。
後はあの嫁さんと社長に任せればいいだろう。
俺は今日の仕上げにかかる。
準備されたステージに上がり、ヒロトとユウキに合流した。
二人とも今日の仕掛けを知ってるだけにニヤニヤとしている。チッと軽く舌打ちしてギターを手に取ってスタンバイに入る。
会場が暗くなりスポットライトが当たると同時に司会者に俺たちが紹介され、ヒロトの合図で演奏を始めた。
『月明かりの翼』
俺はエレキではなくアコースティックギター。ヒロトもドラムセットではなくパーカッションを使う。この披露パーティーだけの特別なバージョンだ。
そしてユウキのボーカルに俺もヒロトもコーラスで参加する。公の場で俺が声を出すのは初めてってことで会場からはざわめきが起こる。
ステージ横にちらりと目をやると、西隼人と秋野真紀の満足そうな顔が。
これで借りは返したからなと真顔で視線を返しておいた。
果菜には言ってないが、彼らにはかなり世話になっていたのだ。これはそのお礼ってわけで。
俺と果菜の交際が発覚して、思ったより過熱報道されていた。
騒ぎが大きくなってしまい果菜が出歩けない事態に陥ってしまった時に彼らに助けてもらったのだ。
本当なら二人の婚約発表はもっと先のはずだった。
そこをうちの社長が自分の事務所の所属女優である秋野とその相手である西隼人、それと西の事務所に頼んで婚約発表報道を早めてもらったという裏事情があった。



