35階から落ちてきた恋 after story ～you are mine～

「泣いてる、果菜は泣いてる。で、泣かせたのは明らかに俺だ。ごめん。泣くほどのことだよな？」

貴くんは片方の口角をキュッと上げて困ったように笑って私の腕をつかんで引き寄せようとする。
驚いたことに彼はうっすらと笑っている。

私がどんな思いをしていると思っているの。
あなたにとっては笑い事だというの。

「泣いてない！」私は腕を突っ張って貴くんの胸を押して彼の腕の檻に囚われないように抵抗を試みる。だけど男の力にかなうはずもなく、今度は正面から抱きしめられてしまう。

「イヤ！離して」
「果菜、ごめん。そんなつもりじゃなかった」

「離してってば！」必死になってもがいても彼の檻からは抜け出せない。

「俺も浮気はしていないから。ここんとこ悪かった。忙しいうえに淋しがらせて心配させて」
頭の上から声がする。

でも、言葉は謝っているけど、その声は嬉しそうでちっとも悪いと思ってない。
私がこんなになっているのに何がそんなに楽しいの。
怒りと悲しみ、悔しさでいっぱいになってもう破裂しそう。

「少しも悪いと思ってないでしょ。もう信じられない。離してってば」

ぎゅうぎゅうと抱き締められているから上半身の自由はきかない。
本気で彼の腕から出たかった。

「痛ぇ！」
私は貴斗の足を力を込めて踏んづけて、痛みに驚いて力が緩んだ貴斗の腕の檻の中から飛び出した。