冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出してごくごくと飲んでいると、背後に貴くんの気配がした。
「お前が心配するようなことは何もないから」

「何もって何が?」
「何もは何もがだよ」

「そんなんじゃわからない」
「それより、果菜。帰ってきたらメールを入れる約束だろう。夕べはどうした。疲れて忘れた訳じゃないだろ」

明らかに話をそらされた。
確かに昨夜は帰宅を知らせるメールをしなかった。もちろんわざと。
香水と口紅をつけて朝帰りされたら頭にもくるだろう。

唇を噛み締めて貴くんを見る。

「果菜、帰宅したかどうか心配するだろ。疲れていてもメールは入れろ」

じゃあ、あなたは?

聞こうとした途端、来客を知らせるインターホンが鳴った。
「・・・迎えが来た。行ってくる。出かけてもいいがメールは忘れるなよ」

不満げな私に気が付いているはずなのに、私の恋人であるはずのオトコは背を向けて出て行ってしまった。
ほとんど説明することなく。
大きな疑惑だけを残して。