名前で呼んでよ、黒瀬くん!【完】




「そ、そんなことないですよ!」



慌てて反論するが、時すでに遅し。



「新垣と黒瀬は今日居残りだな。俺の雑用手伝え。」



「え、俺もかよ…」



小さくそう呟いて不服そうな顔をする黒瀬。



もとはと言えばあんたのせいなんだから当たり前でしょ。




するとクラスの女子たちが『岳くんと居残りなんていいなぁ』『私が代わりにやりたいくらい』『二人きりなんて羨ましすぎる』




なんて口々に言い出す。



代わってほしいっていうのがもちろん本音なんだけれど、そんなこと内野先生にバレたらまたさらにお説教されることになるからそれも難しいか…



私ったらよりによりってどうして担任の授業のときにこんなヘマしちゃうんだろう。


「はーい」


と私は力なく返事をした。





「楽しみだな放課後」



なんて顔を近づけて私にしか聞こえないくらいの声で、妖艶に笑う黒瀬。


「…ちっ、近いし、」


男の人に免疫のない私は、ちょっとでも 動けば唇が当たってしまいそうな距離に、動揺する。


…悔しいけど今、黒瀬にドキドキしてしまった。


私はそのドキドキがバレないように、黒瀬から顔を背けて授業を受けた。