「ちょっと、待って。どうして私に何の相談もなくそんな勝手なことしたの?」
「それはな、この間、夕夏ちゃんに菜子の本心を聞き出してもらっただろ? あの時の交換条件だったから」
樹さんはしれっと答える。
「はあ? 何それ……」
「もちろん、会社に関連することや菜子が襲われた事件については内容を変えてもらってるし、実名も全てふせてあるから問題ないだろ?」
にっこり笑う樹さんに全く反省の色はない。
「いやいや、問題あり過ぎでしょ」
フウーとため息をこぼした私に、樹さんは再びスマホを差し出した。
「まあ、そう言わずに読んでみなよ? 夕夏ちゃんのデビュー作なんだし」
そう言われて、私は渋々スマホを受け取った。
【正しい玉の輿の乗り方~貧乏ドケチ女とイケメン御曹司の恋の話~】
サブタイトルはイマイチ気に入らなかったけれど、読み進めていくうちに涙がこぼれ落ちた。
思いがけず佳子の想いを知らされたからだ。
「夕夏ちゃん、菜子のご両親からも話を聞いたらしいよ」
「そっか」
小説の中で私の両親が語っていた。
佳子は、私が佳子の為に愛のない結婚をしようとしていたことに気づいていたと。だから、もし私が愛のない結婚をするようならば手術を拒否しかねなかったと。でも、菜子のお見舞いに現れた樹さんが、『手術代は必ず寄付で集めるからね』と菜子に約束してくれたことで菜子は安心し、手術を受ける決心をしたのだそうだ。後にそれが樹さんが用意したお金だったことが発覚したけれど、既に私と樹さんが本気で愛し合ってることを確信していた菜子は、空港でのサプライズプロポーズを提案したのだという。
「そっか。そういうことだったんだ」
夕夏が教えてくれなかったら、私は一生知ることができなかったかもしれない。
こればかりは夕夏に感謝だ。



