祖父の代に名古屋から東京に本社を移した宮内製薬は、長い月日と某大な資金を投じて、癌の免疫治療薬『サクラール』の開発に力を注いできた。

この『サクラール』は、従来の抗癌剤とは異なり、免疫力を復活させてがん細胞を攻撃するという画期的なもので、認可されれば多くのがん患者の命を救うことができると期待されていた。

けれど、あと一歩というところで、『サクラール』の治験を中止せざるを得ない状況へと追い込まれてしまったのだ。

その発端となったのは、昨年宮内製薬が買収したアメリカの製薬会社『ハピネス社』の薬剤訴訟問題だった。

実は『ハピネス社』が過去に開発した『ピネス』という心臓病治療薬から癌の誘発成分が見つかったのだ。

そして、アメリカで薬を使用したという数千人近くの患者が何らかの癌を発症したと訴えた。

その為、宮内製薬は原告団に対し、巨額な賠償金を支払うこととなり、数千億規模の赤字を計上することになったのだ。

株価も一気に値を下げた。

それを受けて、メインバンクの『あおば銀行』が『サクラール』の追加融資を断ってきた。

そもそも『ハピネス社』の買収話を父に持ち掛けてきたのは『あおば銀行』の副頭取だったはずなのだが、今の経営状況ではとても融資はできないと、あっさりと手のひらを返してきたのだ。

父は宮内家が所有する不動産を次々と売却して会社の株を買い戻したが、『サクラール』開発断念のニュースで株価は更に下落した。

その心労がたたったのか父は軽い心筋梗塞を起こし、そのまま都内の病院に入院してしまった。

俺は東吾と共に『あおば銀行』の財前副頭取の元を訪れた。